2026年のノーベル化学賞に、東京理科大学の硤合憲三さんが選ばれました。
発表は日本時間の10月7日、午後6時50分すぎでした(スポニチアネックス「ノーベル化学賞に硤合憲三氏 NHK識者『予想していなかった』」)。
「この漢字、なんて読むの?」
「不斉自己触媒反応って、何のこと?」
ニュースを見て、そう思った人も多いですよね。
NHKのニュースでも、解説の人が「化学賞としては予想していませんでした」と話していました。
説明のフリップが手書きだったことも、SNSで話題になりました。
それくらい、急な知らせだったんです。
この記事では、硤合さんがどんな人なのかを、まずやさしく紹介します。
そのあと、受賞した「硤合反応」が何なのかを、右手と左手のたとえで話しますね。
むずかしい化学の言葉は、できるだけ使いません。
この記事のポイントは以下の4点です。
- 硤合憲三の読み方は「そあい けんそう」、広島県生まれの76歳
- 東京大学を出て、東京理科大学で長く研究した有機化学の先生
- 硤合反応は、右手と左手のような分子の、片方だけがどんどん増える反応
- 片方だけが自然にできる仕組みを、はじめて実験で示した
硤合憲三さんは誰?読み方と経歴、高校や大学
- 硤合憲三さんとは?ノーベル化学賞に選ばれた東京理科大学の名誉教授
- 硤合憲三の読み方は「そあい けんそう」
- 硤合憲三の経歴と学歴、広島大学付属高校から東京大学へ
- 硤合憲三さんの人柄、受賞の知らせは買い物の途中
- 硤合憲三さんと共同受賞のアンリ・カガンさんとは
硤合憲三さんとは?ノーベル化学賞に選ばれた東京理科大学の名誉教授

硤合さんは、東京理科大学の名誉教授です(ノーベル財団「Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026」)。
専門は有機化学です。
炭素をもとにした物質の、つくり方や性質を調べる分野ですね。
受賞の理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見」です。
文字だけ見ると、まるで呪文ですよね。
これは、あとでかみくだいて話します。
賞は、フランスのアンリ・カガンさんと2人で受けます。
賞金は1,200万スウェーデン・クローナで、2人で半分ずつ分けます(ノーベル財団「Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026」)。
日本からのノーベル賞は、これで3年連続です(スポニチアネックス「硤合憲三氏がノーベル化学賞 東大出身10人目、昨年抜かれた京大に再び並ぶ」)。
個人では31人目です。
化学賞では、去年の北川進さんに続いて10人目になりました。

硤合憲三の読み方は「そあい けんそう」
「硤合」は、「そあい」と読みます。
下の名前の「憲三」は、「けんそう」です(読売新聞「広島生まれの硤合憲三氏、『鏡像体』構造の化学物質が片方だけ自ら合成する反応発見」)。
「けんぞう」ではないので、気をつけてくださいね。
ローマ字では「Kenso Soai」と書きます(ノーベル財団「Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026」)。
世界の化学者のあいだでは、硤合さんの見つけた反応は「Soai反応」と呼ばれています(HOME広島ホームテレビ「【速報】ノーベル化学賞に東京理科大学名誉教授の硤合憲三さん 広島県府中町出身」)。
日本語では「硤合反応」です。
つまり、名前がそのまま反応の名前になっているんです。
名前が反応の名前として、世界で使われているということですね。
硤合憲三の経歴と学歴、広島大学付属高校から東京大学へ
硤合さんは、1950年に広島県で生まれました(東京理科大学「本学硤合憲三名誉教授がノーベル化学賞を受賞」)。
出身は、広島県の府中町です(HOME広島ホームテレビ「【速報】ノーベル化学賞に東京理科大学名誉教授の硤合憲三さん 広島県府中町出身」)。
高校は、広島大学付属高校です(中国放送「『吉報を聞いてバンザイをした』ノーベル化学賞に選ばれた硤合憲三さんの母校・広島大学付属高校同窓会が喜びの声」)。
同窓会の会長さんは、知らせを聞いて、役員のみんなでバンザイをしたそうです。

そのあとの歩みを、順に並べてみますね(読売新聞「広島生まれの硤合憲三氏、『鏡像体』構造の化学物質が片方だけ自ら合成する反応発見」)。
1974年に、東京大学の理学部化学科を卒業。
1979年に、東京大学で理学博士になりました。
同じ年に、アメリカのノースカロライナ大学チャペルヒル校で研究員になります。
1986年に、東京理科大学の助教授。
1991年に、東京理科大学の教授になりました。
2017年からは、東京理科大学の名誉教授です。
賞もたくさん受けています。
2012年に紫綬褒章(東京理科大学「本学硤合憲三名誉教授がノーベル化学賞を受賞」)。
2023年に野依賞、2025年に日本学士院賞です(読売新聞「広島生まれの硤合憲三氏、『鏡像体』構造の化学物質が片方だけ自ら合成する反応発見」)。
ちなみに、東京理科大学にゆかりのあるノーベル賞の受賞者は、2015年の大村智さん以来2人目です(石渡嶺司「ノーベル化学賞に硤合憲三氏らが受賞~『Soai反応』の発見で、東京理科大学関係者は2人目」)。
硤合憲三さんの人柄、受賞の知らせは買い物の途中
受賞の電話がかかってきたとき、硤合さんは何をしていたと思いますか。
答えは、家の近くでのお買い物です(TBS NEWS DIG「【ノーベル化学賞】硤合憲三さん『生命を理解するために研究をさらに進める必要がある』」)。
なんだか、ほっとする話ですよね。

電話のインタビューでは、こう話しています。
「私の人生で最もエキサイティングな日のひとつです」。
そして、「これが最終的な答えではなく、生命を理解するためにはこの分野の研究をさらに進める必要があります」とも話しました。
喜びながらも、もう次の研究を見ているんですね。
授賞式は12月に、スウェーデンのストックホルムで開かれます。
その夜、硤合さんは埼玉県志木市の自宅の前で、記者の質問に答えました(毎日新聞「硤合憲三さん『研究分野広く知っていただける』」)。
「私たちの研究分野がノーベル賞に認められ、広く皆さんに知っていただける機会で非常にうれしく思っております」と、笑顔だったそうです。
硤合さんと交流のある、京都大学の杉野目道紀教授は、こう話しています(産経新聞「京大の杉野目教授が祝福『機が熟し、評価実った』」)。
たくさんおしゃべりする人ではないけれど、学生や若い先生の質問にも、ていねいに答えてくれる。
そして、「研究を趣味にして生きている先生だという印象だ」とも。
高校の同窓会の会長さんも、「人柄は優しく」と話していました(中国放送「『吉報を聞いてバンザイをした』ノーベル化学賞に選ばれた硤合憲三さんの母校・広島大学付属高校同窓会が喜びの声」)。
硤合憲三さんと共同受賞のアンリ・カガンさんとは
いっしょに受賞するアンリ・カガンさんは、フランスの化学者です。
1930年に、フランスのブローニュ=ビヤンクールで生まれました(ノーベル財団「Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026」)。
当時のパリ南大学、今のパリ・サクレー大学の名誉教授です(スポニチアネックス「ノーベル化学賞に硤合憲三氏 NHK識者『予想していなかった』」)。
実はカガンさん、2001年にも受賞するかもしれないと言われていました(産経新聞「『幻の候補』だったノーベル賞共同受賞のカガン氏」)。
この年は、野依良治さんたち3人が化学賞を受けた年です。
ノーベル賞は、1つの賞で3人までしか受けられません。
そのため、カガンさんは「幻の候補」と呼ばれていたんです。

硤合さんは、カガンさんのことを「非常に有名な有機化学者」と話しています(TBS NEWS DIG「【ノーベル化学賞】硤合憲三さん『生命を理解するために研究をさらに進める必要がある』」)。
そんな人と賞を分かち合えて、とてもうれしいそうです。
2人の研究は、じつはバトンのようにつながっています。
次の章で、そのつながりも見ていきましょう。
硤合反応とは?不斉自己触媒反応は何がすごいのか、何に役立つのか
- 硤合反応とは?右手と左手のような分子の話
- 不斉自己触媒反応とは?少しの差が99.99%まで増える
- 硤合反応は何がすごい?100年以上のなぞを解いた
- 硤合反応は何に役立つ?薬づくりと生命の起源
硤合反応とは?右手と左手のような分子の話

まず、自分の両手を見てください。
右手と左手は、形はそっくりです。
でも、ぴったり重ねることはできませんよね。
鏡に映したような関係なんです。
じつは、分子にも、こんな「右手と左手」があります(ノーベル財団「Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026」)。
たとえば、体のたんぱく質をつくるアミノ酸がそうです。
どのアミノ酸にも、鏡うつしの2種類があります。
ところが、私たちの体の中のたんぱく質には、そのうち片方しか使われていません。
ふしぎなのは、ここからです。
化学者が試験管で同じ分子をつくると、いつも右と左が半分ずつできてしまうんです。
それなのに、生き物は片方だけを使っている。
どうして片方だけになったのかは、化学の大きななぞでした。
硤合反応は、片方だけが自然にできることを、試験管の中で見せた反応です。
右と左のどちらかが、ひとりでにどんどん増えて、ほとんど片方だけになる。
そんな反応なんです。
不斉自己触媒反応とは?少しの差が99.99%まで増える
「不斉自己触媒反応」という言葉を、分けて見てみましょう。
「不斉」は、右と左のどちらかにかたよっている、という意味です。
「触媒」は、反応を進めるのに、自分はなくならない物のことです(ノーベル財団「Popular information: They solved chemistry’s asymmetric mystery」)。
「自己触媒」は、反応でできた物が、そのまま次の反応の触媒になることです。
できた物が、自分の仲間をどんどん増やしていくんですね。

硤合さんは、いろいろな分子をためして、自分で自分を増やせる分子を見つけました。
「5-ピリミジルアルカノール」という分子です。
1995年の発表では、片方がたった2%多い状態から始めました。
それが、反応のあとには87%まで増えていたんです(ノーベル財団「Popular information: They solved chemistry’s asymmetric mystery」)。
そこから8年。
2003年に、硤合さんはさらにすごい反応を見せました。
はじめは、右と左がほとんど同じだけできます。
でも、たまたま片方が少しだけ多くできる。
そのわずかな差が反応全体を乗っ取り、最後は99.99%まで片方になるんです。
おもしろいのは、くり返すと、逆の側が勝つこともあることです。
どちらが勝つかは、はじめの「たまたま」で決まります(ノーベル財団「Popular information: They solved chemistry’s asymmetric mystery」)。
片方の分子を足さなくても、自然に片方だけになる。
生き物のほかに、これをやってのけたのは、硤合さんが初めてでした(ノーベル財団「Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026」)。
硤合反応は何がすごい?100年以上のなぞを解いた
硤合反応のすごさは、そのなぞの古さを知るとよくわかります(ノーベル財団「Popular information: They solved chemistry’s asymmetric mystery」)。
はじまりは19世紀の半ばです。
フランスのパスツールが、ワインづくりに関わる「酒石酸」を顕微鏡でのぞきました。
そして、鏡うつしの2種類の結晶があることに気づいたんです。

時代がとんで、1953年。
ブリストル大学の物理学者フランクが、片方だけになる反応の条件を、頭の中で考えて3つ出しました。
1つ目は、右か左にかたよった反応を起こせること。
2つ目は、片方をのばして、もう片方をおさえること。
3つ目は、反応でできた物が、自分で触媒になることです。
2つ目を実験で示したのが、カガンさんです。
1986年のことでした。
それまでは、触媒の右と左の割合が、そのままできる物の割合になると思われていました。
ところがカガンさんの実験では、できる物の方が、もっと大きくかたよったんです。
グラフにすると、まっすぐな線にならず曲がります。
これを「非線形効果」といいます。
そして、3つ目まで、全部を1つの反応で示したのが硤合さんです。
カガンさんのバトンを、硤合さんが受け取ってゴールまで運んだ、というわけですね。
ノーベル委員会の委員長は、2人が100年以上前からのなぞに答えを出したと話しています(ノーベル財団「Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026」)。
そして、2人の反応を「spectacular(目を見はるような)」とほめています。
硤合反応は何に役立つ?薬づくりと生命の起源
「でも、それって私たちの暮らしに関係あるの?」と思いますよね。
じつは、大ありなんです。
いちばん大きいのは、薬です(ノーベル財団「Popular information: They solved chemistry’s asymmetric mystery」)。
薬の分子にも、右と左があります。
片方は病気に効くのに、もう片方はいらない副作用を起こすことがあるんです。

ノーベル財団は、これを鍵屋さんにたとえています。
鍵をつくると、いつも鏡うつしの2本ができてしまう。
でも、錠前に合うのは1本だけ。
もう1本を使うと、錠前を傷めることもある。
しかも、2本は見分けにくい、というたとえです。
1960年代の初めには、サリドマイドという薬で、生まれつきの障害を持つ子どもが数千人も出ました。
あとで調べると、害を起こしたのは、鏡うつしの片方だったとわかったそうです。
だから、薬は効く方だけを、できるだけまじりけなくつくりたいんですね。
カガンさんの見つけた「非線形効果」は、今では化学者が反応を組み立てるときの道具になっています。
薬のほか、味や香りの成分、農薬をつくる会社に欠かせないそうです。
新しい素材づくりで役立つこともあります。
もうひとつは、生命の起源のなぞです。
硤合反応は、生き物の体の中の反応とはちがう、人がつくった反応です。
それでも、生き物がなぜ片方だけを使うのかを考える、大きな手がかりになりました。
今、世界中の研究者が、アミノ酸や糖で同じことができないか試しています。
まとめ
まずは、硤合憲三さんは誰なのか、読み方と経歴、高校や大学のおさらいです。
硤合憲三さんとは、ノーベル化学賞に選ばれた東京理科大学の名誉教授で、有機化学の先生です。
硤合憲三の読み方は「そあい けんそう」で、反応は世界で「Soai反応」と呼ばれています。
硤合憲三の経歴と学歴は、広島県府中町の出身で、広島大学付属高校から東京大学へ進み、東京理科大学で長く研究しました。
硤合憲三さんの人柄は優しく、受賞の知らせは家の近くでの買い物の途中に受けました。
硤合憲三さんと共同受賞のアンリ・カガンさんは、2001年に「幻の候補」と呼ばれたフランスの化学者です。
次に、硤合反応とは何か、不斉自己触媒反応は何がすごいのか、何に役立つのかです。
硤合反応とは、右手と左手のような分子の、片方だけがどんどん増える反応です。
不斉自己触媒反応では、たまたまのわずかな差が、99.99%まで増えます。
硤合反応は何がすごいかというと、片方だけが自然にできる仕組みを、はじめて実験で示したことです。
硤合反応は何に役立つかというと、効く方だけをつくりたい薬づくりと、生命の起源の研究です。
授賞式は12月に、スウェーデンのストックホルムで開かれます。
ニュースで硤合さんの名前を見たら、「右手と左手の先生だよ」と、まわりの人に話してみてくださいね。


