「外国人が日本の医療を食い物にしている」そんな言説がネット上でまことしやかに囁かれています。
先日、短期滞在の中国人女性が日本の病院で高額な医療費を請求されたというニュースが話題になりました。
この一件をきっかけに、日本の医療制度や外国人観光客の医療問題に関心を持った方も多いのではないでしょうか。
この記事では、今回のニュースの背景にある日本の医療制度の仕組みから、海外の事例、そして私たちにできることまで、専門家の意見も交えながら、この問題を深掘りしていきます。
この記事を読めば、複雑に見える外国人医療の問題が、もっと身近に、そして具体的に理解できるはずです。
背景にある、日本の医療制度の『穴』
今回のニュースを理解するためには、まず日本の医療保険制度の仕組みを知る必要があります。
実は、日本に住んでいる人であれば誰もが当たり前のように利用している国民健康保険ですが、短期滞在の外国人にとっては、その恩恵を受けることができません。
そこには、制度の「穴」とも言える課題が潜んでいます。
短期滞在外国人は「無保険」状態

日本の公的医療保険は、日本に3ヶ月以上滞在する外国人に加入が義務付けられています。
しかし、観光や短期の商用などで90日以内の滞在を予定している外国人は、この制度の対象外となります。
つまり、彼らは日本滞在中、いわば「無保険」の状態で過ごすことになるのです。
今回のケースの中国人女性も、当初は短期滞在の予定だったため、この「無保険」の状態にありました。
医療費は病院の「言い値」?
では、無保険の人が病気や怪我で病院にかかった場合、医療費はどうなるのでしょうか。
実は、保険診療の価格は1点10円と国が定めていますが、保険が適用されない自由診療の場合、その価格は医療機関が自由に設定できるのです。
多くの病院では、日本人の無保険者に対しては、保険診療と同じ1点10円で請求するのが一般的です。
しかし、外国人に対しては、言語対応のコストや未払いのリスクなどを考慮し、2倍、3倍の価格を設定しているケースが少なくありません。
今回の中国人女性が請求された「3倍」の医療費も、こうした背景から来ています。
コロナ禍が招いた「想定外」の事態
今回のケースがさらに複雑になったのは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大です。
女性は当初の予定通り帰国することができず、日本政府の特別措置によって90日間の在留資格を更新し続けることになりました。
しかし、この特別措置はあくまで「短期滞在」の延長線上にあるものであり、公的医療保険の加入資格を得ることはできませんでした。
その結果、長期にわたって日本に滞在しながらも、無保険の状態が続くという「想定外」の事態に陥ってしまったのです。
専門家や海外メディアから見る、日本の外国人医療
今回のニュースは、日本国内だけでなく、海外からも注目を集めています。
専門家や海外メディアは、この問題をどのように見ているのでしょうか。
異なる視点から、日本の外国人医療が抱える課題を浮き彫りにします。
「国籍による差別」か、それとも「妥当な請求」か

今回の訴訟で、原告側は「国籍を理由とした不当な差別だ」と主張しています。
一方で、病院側は「自由診療の外国人には一律で300%負担としている」と反論しています。
法律の専門家の中には、国籍のみを理由に異なる価格を設定することは、法の下の平等を定めた憲法に違反する可能性があると指摘する声もあります。
しかし、医療機関側からは、言語対応や未払いリスクといった実務的な負担を考慮すれば、価格差は妥当だという意見も出ています。
海外ではどうなっている?世界の外国人医療事情
それでは、海外では外国人の医療費はどのように扱われているのでしょうか。
例えば、アメリカでは、公的な医療保険制度が限定的であるため、多くの人が民間の医療保険に加入しています。
無保険の状態で高額な医療を受けると、自己破産に追い込まれるケースも少なくありません。
一方で、ヨーロッパの多くの国々では、国民皆保険制度が充実しており、緊急時には国籍を問わず医療を受けることができます。
ただし、その後の費用請求については、国や個人の状況によって様々です。
日本の制度は、アメリカとヨーロッパの中間的な位置づけにあると言えるかもしれません。
政治家も問題視。今後の制度改正の可能性は?
この問題は、政治の場でも議論されています。
河野太郎議員は自身のブログで、外国人医療費は日本の医療費全体の1.4%に過ぎず、むしろ若い世代が多い外国人の加入は国民健康保険財政にプラスになっている可能性を指摘しています。
その上で、「外国人に保険医療を受けさせるな」という短絡的な議論ではなく、在留カードとマイナンバーカードの一体化などを通じて、なりすましなどの不正利用を防ぎながら、制度のあり方を冷静に議論すべきだと訴えています。
政府内でも、外国人観光客の受け入れ拡大に伴い、医療制度の見直しを検討する動きが出てきており、今後の動向が注目されます。
まとめ
今回は、短期滞在の中国人女性が高額な医療費を請求されたニュースをきっかけに、日本の外国人医療が抱える問題について深掘りしました。
この問題は、単に「外国人の医療費をどうするか」という話にとどまらず、日本の社会保障制度のあり方や、国際社会における日本の役割を考える上で、非常に重要なテーマです。
感情的な議論に流されることなく、事実に基づいた冷静な議論を積み重ねていくことが、私たち一人ひとりに求められています。
この記事で解説したこと
- 今回のニュースの背景にある、日本の医療制度の『穴』
- 専門家や海外メディアから見る、日本の外国人医療