「昨年のMVP」が今年、輝けない理由とは?北口榛花選手に学ぶ、ディフェンディングチャンピオンの重圧を力に変える法
2025年9月18日、スポーツニュースを見て胸が締め付けられるような思いをした方もいるかもしれません。
陸上の世界選手権、女子やり投げで大会2連覇を狙う北口榛花選手。
パリオリンピック金メダリストであり、誰もが「今回もやってくれる」と期待したディフェンディングチャンピオンです。
しかし、予選では思うように記録が伸びず、決勝進出も危ぶまれる事態に。
試合後、彼女が見せた涙は、多くの人の心を揺さぶりました。
「去年のトップセールスだったのに、今年はなぜかうまくいかない…」
「鳴り物入りで立ち上げたプロジェクト、次も成功させなきゃとプレッシャーで眠れない…」
北口選手の姿に、そんな自分を重ね合わせたビジネスパーソンも少なくないのではないでしょうか。
一度大きな成功を収めた者が直面する、あの独特の重圧。
人はそれを「ディフェンディングチャンピオンの宿命」と呼びます。
この記事では、北口選手の挑戦をケーススタディとしながら、私たちビジネスパーソンが「昨年のMVP」というプレッシャーを乗り越え、再び輝くための具体的な方法を3つのステップで解説します。
なぜ、私たちは「重圧」に潰されそうになるのか?プレッシャーの3つの正体
成功体験は、甘美な記憶であると同時に、重い足かせにもなります。
なぜ「ディフェンディングチャンピオン」は、かくも苦しむのでしょうか。そのプレッシャーの正体を、3つの要素に分解してみましょう。
1. 周囲からの「見えざる期待」という名の鎖
「〇〇さんなら、次も大丈夫だよね」
部署の同僚や上司から向けられる、善意に満ちた期待。それは応援であると同時に、「できて当たり前」という無言のプレッシャーに変わります。
北口選手に向けられた満員の国立競技場の大声援も、彼女の肩には重くのしかかっていたのかもしれません。
ビジネスシーンでも同様です。
昨年度の成功が大きければ大きいほど、周囲の期待値は自動的に引き上がります。
その期待に応えられない自分を想像すると、恐怖で足がすくんでしまうのです。
2. 「完璧な自分」という幻想との戦い
最も手ごわい敵は、時として自分自身です。
「前回以上の成果を出さなければ、成長したとは言えない」。
そんな完璧主義が、自分を追い詰めます。
北口選手は今季、右肘の故障に苦しみました。
それでも彼女は「ケガをしても、目標は変わらず金メダル」と公言しています。
その高い志こそが彼女を世界の頂点に導いた原動力ですが、同時に、理想と現実のギャップに苦しむ原因にもなり得ます。
「去年の自分なら、このくらいの目標は達成できたはずだ」。
過去の栄光が、現在の自分を正当に評価する目を曇らせてしまうのです。
3. 「成功体験」という名のコンフォートゾーン
皮肉なことに、私たちを最も縛り付けるのは、過去の成功体験そのものです。
「このやり方でうまくいったのだから、次も同じ方法で大丈夫なはずだ」。
しかし、市場環境も、顧客のニーズも、そして自分自身のコンディションも、刻一刻と変化しています。
前回の成功法則が、今回も通用する保証はどこにもありません。
北口選手も、復帰戦では自己ワーストに近い記録に終わりました。これまでと同じ調整法が、ケガを抱えた身体にはフィットしなかったのかもしれません。
成功体験への固執は、変化への対応を遅らせ、新たな挑戦を妨げる「見えない壁」となってしまうのです。
重圧を「力」に変える3つの実践的ステップ
では、この息苦しいプレッシャーから逃れ、再び自分らしいパフォーマンスを取り戻すにはどうすればいいのでしょうか。
北口選手の姿から、3つの具体的なステップを学んでいきましょう。
ステップ1 ダメな自分を「認める」勇気を持つ(自己受容)
最初のステップは、痛みを伴いますが、最も重要です。
それは、「今、自分はうまくいっていない」という事実を、ありのままに受け入れること。
予選後、涙を流しながらも「たぶん決勝には残れない。悔しい結果になった」と語った北口選手。
この言葉は、単なる弱音ではありません。現実を直視し、受け入れるという、次への一歩を踏み出すための「儀式」なのです。
ビジネスの世界では、弱さを見せることは「悪」とされがちです。
しかし、一人で抱え込み、虚勢を張り続けることは、問題をさらに深刻化させるだけです。
「今、正直しんどいです」「去年のようには結果が出ていません」。
信頼できる上司や同僚にそう打ち明ける勇気が、状況を好転させる第一歩になります。
ステップ2 「金メダル」を「今日のベスト」に分解する(目標の再設定)
大きな目標は、時に私たちを押し潰します。
プレッシャーに押し潰されそうな時は、壮大なゴールを、達成可能な小さな目標に分解してみましょう。
北口選手は、ケガからの復帰後、約1週間で記録を10m近くも伸ばしました。
これは、「いきなり自己ベスト」を目指すのではなく、「まずは試合勘を取り戻す」「60mを確実に超える」といった、段階的な目標設定があったからこそ可能になったはずです。
あなたの「金メダル(年間目標)」は何ですか?
それを達成するために必要な「月次の目標」「週次の目標」、そして「今日のTo-Doリスト」まで落とし込んでみましょう。
「契約を10件取る」ではなく、「今日はアポイントの電話を5本かける」に集中する。小さな成功体験の積み重ねが、失いかけた自信を取り戻させてくれます。
ステップ3 結果ではなく「昨日の自分」と勝負する(プロセスへの集中)
「結果はコントロールできないが、行動はコントロールできる」。
これは、プレッシャーマネジメントの鉄則です。
北口選手は、2019年から単身「やり投げ大国」のチェコに拠点を移し、地道なトレーニングを続けてきました。
彼女の強さの源泉は、一発のビッグスローではなく、日々の練習という「プロセス」の積み重ねにあります。
他人からの評価や、コントロール不可能な結果に一喜一憂するのをやめ、「昨日の自分より、今日はスクワットを1回多くできた」「昨日より、今日は1ページ多く資料を読み込めた」というように、自分自身の「行動」と「成長」に焦点を当てましょう。
手帳に、今日できたことを3つ書き出す「3グッドシングス」を実践するのも効果的です
。自分の努力を可視化することで、自己肯定感が高まり、プレッシャーの中でも心の安定を保つことができます。
あなたは一人じゃない。チームを最強の「盾」にする方法
最後に忘れてはならないのが、「チーム」の存在です。
プレッシャーは、一人で抱え込むからこそ、その重みを増します。
北口選手には、彼女を支えるチェコ人のコーチやトレーナー、そして日本のファンがいます。
彼女の涙は、その期待に応えたいという思いの表れでもあり、同時に、その存在が彼女を支えている証でもあります。
ビジネスパーソンにとってのチームとは誰でしょうか。
•上司
あなたの現状を最も理解し、期待値を調整してくれる存在です。定期的な「報連相」は、自分を守るための最強の武器になります。
•同僚
同じようなプレッシャーを経験したことがあるかもしれません。弱音を吐き、知恵を借りることで、新たな視点が得られます。
•家族や友人
仕事とは関係ない存在だからこそ、無条件の味方になってくれます。彼らとの何気ない会話が、最高のストレス解消になることもあります。
プレッシャーを感じた時こそ、周囲に助けを求める時です。あなたの「チーム」を信頼し、頼ることで、重圧という名の盾を、共に乗り越える力に変えることができるのです。
まとめ 今日の涙は、明日の金メダルのために
「ディフェンディングチャンピオンの重圧」。それは、成功者だけが味わうことのできる、特別な成長痛なのかもしれません。
北口選手の挑戦は、まだ終わっていません。予選の結果がどうであれ、彼女がこの経験から学び、さらに強くなってくれることを、私たちは信じています。
この記事を読んでくださったあなたも、今、まさにプレッシャーの只中にいるのかもしれません。しかし、その重圧は、あなたが昨年、素晴らしい成果を上げたことの紛れもない証です。
1.プレッシャーの正体を知り、客観視する。
2.「自己受容」「目標再設定」「プロセス集中」の3ステップを踏む。
3.一人で抱え込まず、チームを頼る。
この3つのヒントを胸に、あなたも、あなただけの「金メダル」を目指して、今日からまた新たな一歩を踏み出してみませんか。その挑戦の先に、去年よりもっと輝くあなたが待っているはずです。